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「シスターシスター♡双方向性三角関係」エピソード1

シスターシスター♡双方向性三角関係」の記念すべき(?)エピソード1をぺたり。

「続き」をどうぞ~。気になったらカクヨム連載、見てね★

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なお、↓の文はアップデートされている可能性があります。

2016/7/13現在はこのカタチ、ということです。

 

#001-第1話「視覚的には『いいね!』」

 昨夜、俺の頭に黒いウサミミが生えた。

 

 それはよく覚えている。

 

 俺の部屋に、俺の姉と先輩が訪ねてきた。

 

 それもなんとなく覚えている。

 

 だが、そこから先は、なんだか曖昧だ。

 

 今日は四月二十三日で、満月の次の日だ。ついでに言えば、西暦は二〇一六年。そして土曜日だ。

 

 ――こんな具合に、一日の最初に「日付」と「月齢」を思い出すのは、三年くらい前から習慣になっている。

 

 腹時計的には、まだ午前六時くらいだろうし、まだ寝ていても問題ないだろう。今日は休日だし。

 

 …………。

 

 だが、全身にのしかかっている、柔らかくも質量のある、どこかこう、本能がムラムラするようなこの圧迫感プレッシャーはいったい何なのだろう。しかもなんだか、まとわりつくような、ふわりと温かな湿気が俺を包み込んでいる。

 

 繰り返すが、今は四月だ。北海道札幌市の四月といえば、「雪がようやく駆逐された」程度の時期である。いや、四月に雪が降ることすらある。つまり、未だ寒い。しかしながら、実家を出たばかりの大学一年生である俺には、この時期に暖房器具という贅沢品を使えるような経済的余力はない。つまり、四月の早朝である今、部屋がこんな具合に温かいというのは、考えにくいのである。

 

 そんなわけで、目を開ける前に、昨夜の出来事を整理してみよう。

 

 そう思った、まさにその瞬間である――。

 

「あぁん、ハルくぅん♡」

 

 耳をトロけさせるような甘い声と、顔に吹きかけられた強烈なアルコールの臭いで、俺は反射的に目をカッぴらいた。俺の本能が、警鐘を打ち鳴らしたのだ。

 

「ううっ!?」

 

 最初に目に入ったのは、妖しくつやめくピンクの唇だった。それは今にも俺の唇に接触しそうなほどに、近い。とにかく、近い。

 

 この絵面だけ考えると、とんでもなく「いいね!」な状況ではあった。

 

 だがしかし。

 

 これが、どうしようもなく酒臭いのだ。

 

 思わず酸っぱい泡を吹きそうになった。頭がクラクラする。

 

 ううっ、これはひどい

 

 その時――。

 

『キスするんだ、キス! 据え膳だよ! す、え、ぜ、ん! ボクが許す! キスするんだ! っていうか、キスして! せぇのっ!』

 

 俺の中の謎の声が空気を読まずにわめき出した。うん、謎の声と言ったら謎の声なのである。そして、こいつが空気を読まないのはいつものことだ。

 

 「キスしろ」……という言葉自体は、強烈な誘惑である。だが、それを正気に返らせるほどに、そのうっすら開いた唇の周辺は酒臭かった。もう俺は状態異常である。麻痺状態である。ついでに毒状態でもある。俺のHP表示は、とうに黄色く変色していることだろう。

 

『何だよこの馬鹿、この意気地いくじなし!』

 

 馬鹿とはなんだ、この馬鹿!

 

 我ながら幼稚なやりとりである。

 

 ……こんな奴は放っておいて、とりあえず状況を整理しよう。

 

『放っておくなよ! 僕はこれでも』

 

 ええい、うるさいわ!

 

 俺は構わず状況調査を開始する。

 

 まずは、と。

 

 うるわしき女性が、寝ていた。俺の隣で。

 

 ……ということは、さっきの「あぁん、ハルくぅん♡」は、どうやら寝言だったようだ。

 

 そしてその女性は、俺のボディをがっちりとホールドしていた。間違いなく視覚・触覚的には「いいね!」であったが以下略。

 

 そんな地獄だか天国だかわからないシチュエーションにおいて、俺は接触部分の皮膚感度を研ぎ澄ませた。

 

 ま、待て、誤解するな。これは、男の本能ゆえなのだ。よって、これは自動的なものであり、つまり、仕方がないのだ。仕方ない。うん。

 

 ――何はともあれ!!

 

 やわらかい! 何が、とは言わないが、やわらかい……ッ!

 

 嗅覚的な要因さえなければ、きっと……。

 

 否応なしに皮膚から送り込まれてくるその触感に、俺が暴走し始める。

 

 いやいや、待ちなさい、俺。

 

 不純なことは考えてはならない。考えるな。感じもするな。

 

 俺は俺に強く言い聞かせる。気力を根こそぎ奪われる交渉ネゴシエーションである。このつらさ、男子ならば誰にでも理解できるはずだ。

 

 あ。

 

 そういえば。

 

 ふと我に返る。

 

 ……どうしてこうなったんだっけ?

 

 俺は俺に平静を保つようにと繰り返し言い聞かせながら、今度こそ状況確認の作業に取り掛かったのだった。

 

 

#001-第2話「食い込む布地、その色は、白」

 さて、と。

 

 状況を思い出そうと思案するが、何故だか全てがぼんやりとしていた。記憶の断片化が著しい上に、どれもこれもが劣化している……そんな感じだ。寝起きにしても思い出せないにもほどがある、という具合だ。

 

 俺の頭に黒いウサミミが生えた事から物事が始まっているということだけは、確かだ。

 

 だが、今はもう頭の上には何もなかった。……予想通りだ。

 

 ええい、分かる所から整理しようか。

 

 とりあえず、俺に密着して眠っているこの女性、犬神いぬがみ万梨阿まりあ先輩は、美人だ。

 

 ほんのり茶色いロングヘアに、切れ長の目(今は閉じてるけど)、長い睫毛、小さめで整った形の鼻、そしてなまめかしいほど瑞々みずみずしい唇。輝くばかりの白い肌。これで耳が長ければ、まさにエルフ。否、ハイエルフである――なんとなく。

 

 そして鎖骨から肩甲骨に至るラインも、実にイイ。

 

 ……って肩甲骨ですか?

 

 ところで何故なにゆえこの万梨阿先輩は、肩甲骨が丸見えなお姿でお眠りになっていらっしゃるのですか?

 

 何故なにゆえ、俺に絡まっておられるのですか?

 

 しかも俺の布団で。

 

 ……せぬ。

 

 俺の大脳と脊髄と身体の一部が、若干の混乱を来たす。

 

 そして。

 

 ところで。

 

 腹の上のこの圧迫感は、なに?

 

 万梨阿先輩のお美しいご尊顔(と肩甲骨)から視線を無理矢理引き剥がし、自分の腹部へと移動させる。

 

 そこには、程よく肉感的な二本の足が、ぱっくりと開かれた状態で転がっていた。当然、その延長上には足の付け根というなかなかにロマンあふれるものが存在する。そしてそこには布きれが存在していた。(半分ばかり食い込んではいたが)燦然さんぜんと輝くその色は白だ。繰り返す。白である。

 

「重いな……」

 

 と言いながらも、一分近くはその白い布を凝視した。だが、その持ち主――具体的にはお尻だ――がぴくりと動いたのを見て、俺は我に返る。返らざるをえない。何故かは……男の事情を察してくれ。

 

「あらぁ♡ ハルちゃん……いけない子ねぇ、ふんふん……♡」

「ちょ、こら、姉ちゃん! だめだってば!」

 

 そう、お尻の肉に半分食い込んだ白い布切れの持ち主は、俺の実の姉である。男にまつわる数々の悲劇的な伝説を打ち立ててからは、見事にこじらせ系ブラコンにクラスチェンジした二十四歳のOL(事務職)である。

 

 だがまぁ、俺と姉ちゃんには、ほんとうに色々あったんだ、ここに至るまで。それはおいおい説明していくので、気長に待っていて欲しい。

 

 あー……、せっかちな人は、ここから第七話(エピソード2)まで飛ばしてくれても構わない。構わないが、本当に、良いんだな?

 

「もうっ、ハルちゃんてば、乱暴なんだから♡」

「まだ酔っ払ってるでしょ、姉ちゃん!」

 

 その絶妙な重量感を持つしっとりなめらかな足をむんずと掴んで強引に引きずり落ろし、何とか視界を確保する。その際、うっかり、もとい、しっかりと太ももを触ってしまったが、これは不可抗力である。

 

 不可抗力……実に便利で甘美な表現ではないか。俺は大好きだ。

 

 で――。

 

 よかった、パジャマのズボンはそれなりにまだ穿いていた。一安心である。

 

 どうやら昨夜のあの混迷の中でも、俺の貞操までは奪われなかったようだ、と。

 

 あれ……?

 

 うーん……?

 

 やはり昨夜のことが鮮明にならない。が、代わりに意識の中に和ロリ風なあいつが浮かんできた気がする。あいつ、いたっけ……?

 

 と、とりあえず、現在に至った経緯を、今度こそきちんと確認しなくてはなるまい。

 

 俺は大きな溜息をひとついて、エロスなオーラを放っている姉の方を窺った。

 

 

#001-第3話「ネコランジェリーで検索!」

 姉は、修道服だったはずの濃灰色のものを着ていた。少なくとも昨夜までは間違いなく、ちゃんとした修道服だった。だが、いまや、そのスカート部分は破れてめくれ上がり、胸元も緩み、相当にあられもない姿になっていた。

 

 元が修道服だけに、その落差ギャップがすごい。

 

 俺の両目が、大きく露出したフトモモや胸元を激写していく。大きなおっぱいに、引き締まっているが程よく女性的なフトモモ、(酒の力を借りた)どこか挑発的な視線……というトリプルコンボに、俺はもう、ウナギノボリである!

 

 ……俺、落ち着こうな? な?

 

 スキル・精神統一で自分をしずめている俺を見ながら、「ハルちゃん」と、姉は必要以上に湿り気を帯びた声音で言う。

 

「シスター姿のお姉ちゃんにムラっときてるんでしょ、わかってるわよ♡」

 

 きてません。きちゃいけない状況でしょ、これ。

 

 そんなことを思いながら、姉の周辺に視線を彷徨さまよわせつつ、俺は少し大きな声で言った。

 

「もうッ! まだアルコール抜けてないでしょ、姉ちゃん」

「さっきまで飲んでたんだから、当たり前じゃない!」

 

 逆ギレされた……。

 

 俺は次なる言葉を見失う。

 

 ま、まぁ、こんな風になっていることを差し引いても、姉は美人だ。そのうえ、昨年までは、正真正銘のシスターだったのである。だが、だからと言って、実の姉にムラっとなんてくるはずがないのである。

 

 …………。

 

 すみません、嘘つきました。ごめんなさい。

 

 正直に言うと、俺と姉には色々あった――。その色々こそが、これからの話の中核になっていくので、もう少し待って欲しい。

 

 俺はこの時点でそれ相応に取り乱してはいた。だがまだ理性を失ってはいなかった。俺の理性防衛隊は、まだ、耐えられる! ……と、思いたい。

 

 この三重トリプルとも四重クアドロプルとも言える誘惑コンボに耐えられるのは、鼻をつく酒臭さのおかげ、なのだが。この世で最も苦手な臭いに救われるとは、なんだか胸中複雑である。

 

 俺は首を振り、姉を見た。

 

「姉ちゃん!」

「ふぁい♡」

はぁと、じゃなくて!」

 

 ほだされそうになるのを危うく回避して、俺は姉の(大きな)胸を指さした。

 

「その服着替えて! 着てきた服に! 大至急!」

 

 取り繕うように、逃げるように、俺は姉から目を逸らす。しかし、逸らした先には、万梨阿先輩の尊い寝顔があった。そして俺の視線は、自動的に(←重要)先輩の白いボディの観察を開始してしまう。

 

 横向きに寝ている万梨阿先輩は、ネコっぽいランジェリー(黒)を装備なされていた。具体的には、ブラ(黒)の胸の谷間部分には「ネコ型」の切り抜きがあり、華麗なる紐パン(黒)のお尻にはピンク色の「ネコの肉球」がプリントされており、その他……とにかくなんだか色々とネコっぽいデザインなのだ。ああもう、「ネコランジェリー」あたりのワードで画像検索してみると良いと思う。

 

 出てきたか? うん、そう、それだ。

 

 よし、その検索結果の画面は閉じるんだ、今すぐ。

 

 ……では、説明を続けよう。

 

 先輩は着痩せするタイプらしく、ブラ(黒)のネコ型はなんだかふくよかだった。当然、その内側にある谷間もまた、ふんわりとしていて、かつ、まるで物理的に吸い込め……ごほん、吸い込まれそうなほど深い。それでも姉のよりは少し控え目に見えるから、Eカップってところだろうか。

 

 もっとも、Eもあれば色々と必要十分である。きっとなんだってできる。

 

 ……いやいや、ちょっと待て。

 

 れつつ妄想している場合じゃない。

 

『もっと目に焼きつけておきなよぉ。絶品じゃないかぁ、Eカップおっぱい♡』

 

 だまらっしゃい、謎の声。それと、おっぱい言うな。

 

 俺の身体は、先輩の白く美しい四肢でがっちりとホールドされていたため、そこからの脱出には五分以上を費やした。まるで知恵の輪そのものになった気分だった。

 

 もちろん、抜け出すためには先輩の肢体に触れなければならなかった。当然、太ももやお尻、時としておっぱいなどに手が当たる。いや、だがこれはやむを得ないのだ。仕方ないのだ。決して事故を装って、感触を楽しんだりしているわけではないのだ!

 

 ちなみに破けてはだけた修道服の姉は、左膝を立てたこれみよがし的なパンチラ姿勢で座り、助けるでもなくただジト目で俺の独り格闘戦ドッグファイトの様子を眺めていた。

 

「姉ちゃん、先輩の服持ってきてよ」

 

 俺は若干イラっとしながら言った。だが、姉は唇を尖らせて肩をすくめる。

 

「えー、なんであたしが?」

「だって先輩が脱いでるのは姉ちゃんのせいでしょ!」

「えー、冬美ふゆみおぼえてなーい」

「姉ちゃん、酒酔い侵入禁止にするよ」

「……お姉ちゃんの服をこんなにして、このきわどい純白パンツにも湿った荒い息を吹きかけながらじっくり舐め回すように見ていたくせに、酷いよ、ハルちゃん」

 

 えーと、姉よ。何を言っているのかな。

 

 俺は頬を指で引っ掻いた。その時、姉は、不意ににっこりとほほ笑んだ。

 

 あ……ふぅ。

 

 あぶねぇ、鼻血を出すところだった……。

 

 思わず鼻を押さえている俺に、姉が微笑を浮かべつつ問う。 

 

「ね、正直、ムラっとしてたでしょ♡」

「しませんよ、していません」

 

 俺は半ば意地になって首を振った。

 

「えー、でもだってさっきハルちゃんのがさぁ」

 

 姉が爆弾発言をしようとしたその矢先、先輩がパッチリと目を開けた。その明るい茶色の視線は、俺の目をまっすぐに射抜いていた。

 

 えーっと、その目は……。あのぅ?

 

 

#001-第4話「はだけたシスター×下着のセンパイ」

「あれ? なんで私……」

 

 先輩は目をパチクリさせた後、「えっ」と自分の姿に目をやった。

 

「ま、まさか春人はるとくん……?」

 

 そして俺を見る。

 

 先輩、なにゆえ俺をそんなあわれむような目で見るのでしょう?

 

「ちょっとぉ、万梨阿まりあちゃんだっけ?」

 

 姉が(若干ろれつの回っていない口調で)先輩の名を呼んだ。その時初めて、先輩は姉の存在に気がついた、もとい、思い出したようだった。

 

「ひぇっ」

「人の顔見て『ひぇっ』とは何よ、『ひぇっ』とは。昨夜の事覚えてないわけ? あんた自分で人のビールがばっがば飲んで、勝手に酔っ払って服脱いで寝こけたんでしょうが」

 

 ……そうなの?

 

 ……そうだっけ?

 

 微妙に疑問符が浮かんできたが、俺は黙殺することにした。確かになんだかそんな気もする。

 

 待てよ。そもそも何で昨夜の出来事がこんなに曖昧なんだ、俺。やはり、和ロリか? あのロリ神様のシワザなのか?

 

 悩みはしたが、答えは出そうにもない。あのロリ神様が何かやらかしたような気がしなくもないが――。

 

 「和ロリとかロリ神様って何?」とかいう声も聞こえてきている気がするが、とりあえず今は「ロリ神様」であるということだけ記憶に残していただければ十分だ。いずれ出てくる。具体的にはエピソード28だ。……ネタバレしても良いというのなら、覗いてきてもいいぞ。

 

 メタい話はさておいて。

 

 ともかく思い出せないものは仕方がないので、今はこの美しきパンチラシスターと、見目麗しきランジェリー先輩のやりとりを、主に視覚で分析しようと考えることにする。嗅覚的には地獄だからだ。……敢えて言おう、クサいのである、と!

 

『いやぁ、万梨阿ちゃんは美人だなぁ。ムラムラくるよねぇ!』

 

 黙ってろと言っている、謎の声。

 

『昨夜はお姉さんがいなければ、かーなーり、おいしい思いが出来たと思うよ。あぁ、残念だった。実に残念だよ』

 

 先輩とは出会ってまだ一週間しか経ってないのに、いきなりおいしい思いなんてあるものか。何を言っているんだ、謎の声。それに俺には――。

 

『まぁ、そっちの件は承知してるけどさぁ。でもほら、酔った勢いでとかさ』

 

 先輩と姉はともかく、俺は未成年だ。当然、一滴も飲んでいない。

 

 誰にともなく弁明した、その時である。

 

「お姉様、お願いです!」

 

 大きな声に驚いてその声の方をうかがうと、先輩がランジェリー姿のまま、俺の布団の上で土下座をしていた。俺は思わず立ち上がり、片足を上げた珍妙な姿勢で固まった。

 

 先輩はその白皙はくせきの背中を俺の眼下に惜しげもなく晒し、女性らしい曲線を描く腰からお尻のラインをこれでもかと見せつけていた。想像してみて欲しい。下着姿の女性が平伏しているその姿を。何処を見ても曲線。精緻で完璧なる曲線である。お尻を構成する二つの丸いパーツまで如実に晒し出されているわけである。俺の理性防衛隊の何割かは、その美麗なる背面から臀部にかけてのラインによって討ち死にしてしまったようだった。

 

 ――だが、まだだ。まだ、終わらんよ!

 

 姉はと見ると、左膝を立てて、右足を伸ばして座ったポーズのまま(右足のフトモモから下は全露出である)、顎を上げて先輩を見下ろしていた。その目つきの鋭さたるや、もはや獲物を見つけた猛禽類である。醸し出すオーラによる圧力プレッシャーがハンパない。

 

 その眼力に押された先輩は、布団に頭をこすり付けながら言う。

 

「昨夜見たものは、どうかご内密に!」

「そりゃー、別に。あたしもそういうの、見慣れてるし」

 

 確かに姉よ、あなたはそういうの見慣れておりますよね。

 

 俺はいまだに自分でもギョッとなるというのに。恐るべきは、このこじらせ系ブラコンなり。

 

「ハルちゃんもあんたも、どっちも悪魔きってわけだし」

「あ、あの、姉ちゃん? あれは悪魔じゃなくて……」

「そうなんです、悪魔憑きなんです!」

「ですよね。って、え? ちょっと先輩?」

「囁くんです、私の中で謎の声が」

 

 ちょ、先輩も謎の声が聞こえるの?

 

 ――いや、そうか。そりゃ聞こえるか。俺と同じだもんな。

 

 「謎の声」とか「悪魔憑き」とかいう不思議ワードがナチュラルに出てきているが、これも後々イヤというほど説明するので、今はスルーしてくれると助かる。

 

 そんなことを考えている俺をよそに、先輩は土下座のまま続けた。

 

「満月が近付くと、どうしてもそれに逆らえなくなって」

「それで満月の昨夜、あたしの可愛い弟君を喰べようとしたわけね?」

「はい……」

「まぁ、あのしつこいのがやったってんなら仕方ないわね」

 

 姉は立ち上がる。図らずも深いスリットが入ってしまった修道服からぬるっとはみ出ているフトモモに、どうしても目が行ってしまう。未だアルコールが抜け切っていないと思われる姉は、その推定Fカップのバストを(主に俺に)見せ付けるように胸をらして、高らかに宣言した。

 

「この冬美お姉さんに任せなさい。二人まとめてはらっちゃうぞ!」

「お願いします! お姉様!」

 

 先輩は「ははぁー!!」と言わんばかりに平身低頭し、叫ぶようにして応じたのだった。

 

 

#001-第5話「生えてくるアレ」

 ……うーん。

 

 なんだかおかしな流れになってきたぞ。

 

 そもそも姉は『元シスター』というだけで、祓魔師エクソシストの類ではない。そして、今まで俺に試してきた数々の呪法をってしても成果があがった事は一度として、ない。

 

 十歳の頃から今に至るまで、「謎の声」は俺に話しかけ続けているし、十八歳の誕生日以降のかれこれ約一年間、月夜の晩となるたびに俺の頭にはきっちりとアレが生えてくるのだ。さかのぼれば十六歳の頃から、アレには悩まされ続けているのだが。

 

 頭を抱える俺を尻目に、「その代わり、犬神万梨阿!」――姉は高らかに言った。

 

「その悪魔をはらった暁には、弟にはもう会わないこと!」

「ええっ、どうしてですか!?」

「ハルちゃんにはもう許婚いいなずけがいるからよ!」

 

 きょとんとした先輩を見て、姉は深く息を吸い込んだ。

 

「ハルちゃんには、もう凛凰りおちゃんという婚約者フィアンセがいるのだから!」

「あの、姉ちゃん? それ、今言うシーン?」

「うるさい黙ってな弟」

「あっ、ハイ……」

 

 ドスの利いた姉の声に、思わず頷いてしまった。正直に言おう。この姉は本気になると怖い。酔っているともっと怖い。今この状況を初めて目にしているのならば想像もつかないだろうが、普段の姉はとても優しい。俺にとっては本当に良い姉なのだ。理想の……いやいや、なんでもない。

 

 ともかくそれだけに、いったん怒らせると次に何をしだすか分からない怖さがある。しかも今現在、まだアルコールがたっぷりと残ってるようだし。

 

 押し黙った俺を見ながら、先輩はか細い声で言った。

 

鹿師村かしむらさん、やっぱり彼女さんだったんだ……。嘘ついたのね、春人くん」

「嘘なんてついてないし! あれは先輩が勝手に……」

「やっぱり付き合ってたんだ!」

「だから、そうじゃなくて! いや、そうだけど!」

「そんな! 春人くんい!」

 

 ええっ、なんでそうなる!?

 

 先輩の鋭利な反応に、俺は思わず絶句する。姉の方を見ると、なんとも重苦しく座った目で俺を見ていた。

 

 ……ま、まぁ、そういう目にもなりますよね。俺自身、何が起きたのかわかってないのだから。

 

「へぇ、ハルちゃん。凛凰ちゃんとは遊びだったってわけ?」

「はぁっ!?」

 

 いろんな事情をさておいたとしても、何を言っちゃってるの、この姉! ていうかやっぱりアルコール残り過ぎじゃね!? 俺はまるでマンガのように「あわわわ」と動揺した。

 

「春人くん」

「先輩?」

「……そういうのは良くないと思います」

 

 先輩まで!?

 

 俺は早急な弁解の必要性を感じ、破廉恥はれんちな格好をした二人の女性に向かって両掌を広げてみせた。

 

「いや、そうじゃなくて! リオとは本気に決まってるし、なんらやましい事はないし!」

 

 姉だって俺たちの事情を十分すぎるほど知っているのだ。だが――。

 

 

#001-第6話「意味深♡な答え」

「ふふふ」

 

 不敵に笑う姉。もう嫌な予感しかしない。

 

「事の真相は凛凰ちゃんにけばわかることね、ふふふ」

 

 案の定、姉は俺の心の声を黙殺した。

 

「訊くわよ? 今、ここで」

「な、何を訊くのかよくわからないけど、ど、ど、どうぞ。お、俺にはまだ後ろめたい所なんて、な、ないからな!」

 

 俺がキョドりながらそう答えている間に、「まだ、ねぇ?」と、姉はバッグから黒塗りのスマホを取り出していた。そしてLINEを立ち上げ、不穏な文面を作成しながら、読み上げる。

 

「『いつもハルちゃんの面倒(意味深♡)見てくれてありがとう。もし失敗しても責任は取らせるので、安心してね♡』……はい、送信!」

「姉ちゃん、ちょっと待って!? 何ですかその文面!?」

 

 慌てた時には既に遅し。

 

 姉がニヤニヤしながら見せてきた画面には、さっそく「既読」の文字がついていた。あああ……。

 

 その俺の頬に、自分の頬をくっつけるくらいの至近距離で、先輩もその画面を睨み付けていた。勿論、ネコランジェリー(黒)姿のままで。突き出た肩甲骨が健康的かつなまめかしい。視線を滑らせた先にあったお尻の肉球プリントが、これまた目映まばゆく輝いて見えた。その肉球プリントの布一枚向こうには……。

 

 視覚的にはこの上なく天国ではある。

 

 しかしながら、とにもかくにも酒臭い。

 

 何度でも繰り返すが、この空間、嗅覚的には地獄なのである。密かに息を止めて無駄な抵抗を試みたりもしてみたが、酒臭さはもう脳みそにまで染み付いているかのようだった。クラクラするし、なんだかもう中毒症状寸前である。五文字で表現すると、「吐 き そ う だ」。

 

 苦悶すること数秒、姉のスマホバイブレーションと共に通知音を鳴らした。姉は勝ち誇った表情をしながら、スマホの画面をこちらに向けた。

 

 そこには、こうあった。

 

『はい♡ よろしくお願いします♡』

 

 なんていう意味深な返し♡

 

 いや、そうじゃなくて!

 

 俺を見る先輩の視線が痛い。あうち……。

 

 姉はというと、口に右手の甲を当てながら、勝ち誇った視線を俺たちに向けていた。

 

「凛凰ちゃんはいい子よぉ。あたし、凛凰ちゃんにお義姉ねえちゃんって呼ばれたいなぁ♡」

 

 リオがいい子なのは、俺も十分に存じ上げております――心の中で呟いた。

 

 それにしても、本当に収拾がつかなくなってきた。

 

 HK大学に入学してから、まだわずか三週間。

 

 早くもこんな状況で、俺の大学生活キャンパスライフは大丈夫なんだろうか。

 

 溜息をきながら窓を開け、四月の冷気で室内を洗う。

 

 先輩の脱ぎ散らかした服を拾い集めながら、室内で睨み合う二人の美女を眺めやった。

 

 その時――。

 

『ねぇねぇ』

 

 また謎の声が話しかけてきた。

 

 なんだ、俺は頭が痛いんだ。

 

『はやく万梨阿と子作りしようよ~。次の満月は五月二十二日だよぉ。それまでに練習しとこうよぉ』

 

 ……うるさい、うるさいぞ、謎の声!

 

 本気で今すぐ寝込みたい。テーブルの上に乱立した空のビール缶を見てから、いがみ合う二人に対して見せ付けるように、俺は深く深く息を吐いた。何度目の溜息かは、もう知らん。

 

 それにしても――。

 

 俺はこの数年間の出来事を思い起こす。

 

 ここに至るまでも、ずいぶんと色々あったもんだなぁ……。

 

 ビールの空き缶を片付けながら、俺は全ての始まりとなったあの日のことを思い出していた。

 

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