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新作小説「Crystal Doll(仮)」冒頭部分その2 #narou

★その1はこちら!

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 それから五十年が経過し、その放逐の歴史を身をもって知る者は少なくなっていた。

 地下に作られた巨大なドーム型都市の発展、そして、各ドーム都市を連結する物理インフラおよび、宇宙を漂う軍事衛星群『グラディウス・リング』の再起動による論理ネットワークの再構築によって、人々は生活への不自由を感じなくなり始めていた。

 このとき既に「国家」という括りは何の実行力もない単なる帰属を示すためだけの名詞に落ち着いており、各ドーム都市はそれぞれが事実上の国家として、そこに住む人々を統治していた。物理インフラで接触するドーム都市との外交なども、そのドーム都市を支配する「企業体」が取り仕切るようになっていた。

 食糧問題についても早期に解決はされたものの、供給方法については各都市の支配企業の采配に委ねられざるを得なく、そのため、市民生活レベルには都市内・都市間を問わず、著しい落差が生じ始めていた。しかし、衛星群『グラディウス・リング』を介した論理ネットワークによる情報の流通についてまでは遮断できなかったため、市民の不満あるいは不安は、既に限界の領域にまで上昇していると言っても差し支えなかった。人間というのは、生活レベルが低い者は高い者を妬み、高い者はその地位を脅かす可能性のある低い者を恐れるようにできているからだ。

 また、各都市を結ぶ物理インフラ――地下通路――には、多くの「サイバーグール」と呼ばれる者たちが身を潜め、都市を行き交う物資を略奪するというのも常となっていた。

 そこで力をつけてきたのが、独自の武力を有する「傭兵団」だった。

 彼らは地下通路の其処此処に拠点を設け、金銭(キャッシュ)という絶対的指標に拠ってその武力を動かす集団だ。主たる任務は、各都市の物理輸送の護衛任務だったが、裏の顔ではライバル企業を潰しに行ったり、或いはもっと直接的にドーム都市同士の交戦任務を引き受けたりもする。

 彼ら傭兵団の存在により、結果として一般の市民達の生活は安定し、安全もある程度保障されるようになっていた。

 よって実際のところ、人々は本物の空を見られない以外には、さしたる不便さを感じなくなっていた。そもそも、世界はこうなる以前から、几帳面に区画整理され、棲み分けされ、階級分けされていた。一世紀昔と今との違いといえば、物理的に空を見ることができなくなった……その程度でしかなかったのかもしれない。

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現在、第3章の後半まで執筆しております。

全体の進捗としては2割くらい(修正を含めて)。

5章くらいまで書けたら「小説家になろう」にて連載開始しようと考えています。

宜しくお願い致します。